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東京高等裁判所 昭和45年(行ケ)72号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

第四当裁判所の判断

一まず、本件審決は、第二の三記載の審決理由第(四)段において、訂正前の本件発明におけるジアゾ成分が、引用例に記載されているジアゾ成分と一致すること、第(五)段において、訂正前の本件発明におけるカツプリング成分についても、引用例に記載されているカツプリング成分と一致するものを含むことを述べ、ただし、第(六)段において、引用例には、これらの一致する各成分をカツプリングさせて製造した目的生成物である染料は、具体的な化学構造をもつて示していないことを述べている。

ところで、たとえ引用例に、訂正前の本件発明の目的生成物と同一のものが、具体的な化学構造をもつて示されていなくても、訂正前の本件発明のジアゾ成分およびカツプリング成分と一致するものが具体的に示されているのであるから、これに示唆を得て、訂正前の本件発明におけるジアゾ成分とカツプリング成分の組合せを想到することは、当業者にとつて容易であると考えられるし、目的生成物についてみても、原料成分が同一であれば、カツプリングにより当然に同一の目的生成物が得られるはずである。本件審決は、このような見地から、特に第(六)段および第(九)段において、引用例には、訂正前の本件発明の目的生成物と同一のものが具体的な化学構造をもつて示されていないため、引用例に本件発明と同一方法が記載されているとまではいわないで訂正前の本件発明が、引用例にもとづいて容易に推考しうると判断したものであることは、その全趣旨から認定できる。

ところで、本件訂正審決の確定により、本件特許請求の範囲は、前記第二の四のとおり減縮され、ジアゾ成分には、R9の位置にシアノ基(-CN)が含まれないことになつたから、引用例に記載されている右位置にシアノ基(-CN)を必須とするジアゾ成分と一致しなくなつたことは、当事者間に争いがない。そうすると、訂正前の本件発明におけるジアゾ成分と、引用例に記載されているジアゾ成分とが一致することを前提とし、訂正前の本件発明が引用例から容易に推考できる程度のものとした本件審決の判断は、その前提自体が結果的に覆えされ、結局、訂正後の本件発明の要旨に即した無効事由の存否について判断を欠如し、審決理由だけでは本件審決の結論は誤つていることになる。このことは、訂正審判制度が、特許請求の範囲のうち無効の疑いのある部分を遡及的に減縮することを認めて、本来有効な部分につき特許権者を保護しようとするものであることから、必然的に導かれざるを得ない帰結というべきである。

二被告は、訂正後の本件発明も、引用例から当業者が容易に推考しうるものであり、無効たるを免れず(被告の主張(一))、この点は本件審決取消訴訟において審理の対象となる(この点の判断を経ないで審決の当否を判断できない)と主張するので、検討する。

(一) 被告の主張(二)1について

まず被告は、本件審決においては、被告の主張(一)の無効事由についても実質的には判断されていると主張する。

しかし、本件審決においては、訂正前の本件発明そのものが、引用例のものと同一である旨の判断はされておらず、また、容易推考の判断は、訂正前の本件発明におけるジアゾ成分と、引用例に記載されているシアノ基(-CN)を必須とするジアゾ成分とが一致することを前提とするものであることは前記のとおりであるから、本件審決が、訂正後の本件発明にいうところの、シアノ基(-CN)を含まず、引用例のシアノ基(-CN)を必須とするジアゾ成分とは一致するところのないジアゾ成分の場合についてまで、進歩性の判断をしているとは到底解することができない。この点につき被告が種々述べる審決の解釈は、独自のものというほかはない。したがつて被告の右主張は失当である。

(二) 被告の主張(二)2について

1 同(二)2(1)、(2)について

本件審決においては、訂正後の本件発明が、なおも、引用例に記載された事項から当業者が容易に推考しうるかどうかについて判断を欠いていることは、前記の検討から明らかであり、この点は自明な事項とは到底いえないから、なお無効審判手続において、特許庁がジアゾ染料についての専門技術的な見地からする審理判断を経なければならない。これを省略して、当裁判所が独自に右の点を判断することは、特許性の有無に関する紛争につき、まず特許庁の審判手続を経、その審決に不服がある場合にのみ当裁判所に出訴しうるとした法の趣旨を没却することになり、許されないといわなければならない。

被告の引用する最高裁大法廷判決は、審決取消訴訟においては、審判の手続において審理判断されなかつた公知事実との対比における無効原因は、審決を違法とし、または、これは適法とする理由として主張することができない旨を明らかにしたにとどまり、本件の場合のように訂正審決の確定により、発明の要旨自体が減縮され、その結果無効審決における引用例に記載されたものとの対比判断が結果的に覆えされ、維持できない場合において、同じ引用例にもとづくかぎり、別異の理由により無効となるかどうかを、特許庁における無効審判手続の審理判断を経ないで裁判所が独自に判断しうることまでを述べたものとは解せられない。

よつて、被告の右各主張は理由がない。

2 同(二)2(3)、(4)について

たとえ、特許庁における訂正審判手続の遅延により、本件訴訟の進行が遅れたとしても、そのこと自体は手続の運用上の問題であつて、進んでこれを理由として、前記のような無効審判手続における審理判断を経ていない事項を当裁判所が独自に判断することができると解することができないことは、これまでの検討により明らかである。そして、このように解して本件審決を取消し、本件無効審判手続係属中に本件特許の存続期間が満了しても、本件特許が有効か無効かの審決はなさなければならず、これに対して取消訴訟も提起できるのであるから(旧特許法五七条三項)、被告の裁判を受ける権利が否定される訳ではない。

よつて被告の右各主張も失当である。

(小堀勇 小笠原昭夫 石井彦壽)

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